〜2012年〜

『春告』(象牙)



山の中で山童女子が耳を澄ましている。
麓の里より微かに聞こえて来る鶯の鳴き声で
彼女は里に春が訪れ始めていることを知る。

長く厳しい冬を終え、山童女子がそろそろ山を降り
河童として過ごす時期に入る...そんな様子が彫られている。

「秋になると河童が山に帰り山童になる」という
2000年に制作された『帰ろかな』から
約12年を経てのスピンオフ的な作品である。


『火付盗賊改方』(鹿角、象嵌/目:真鍮)



ニホンオオカミは神格化され、大口真神と崇められ
人の言葉を理解し、善人を守護し、悪人を罰すると云う。

特に商人の間では、火事や盗難除けのご利益があるとされる
そのオオカミは大神であり、真神(オオカミの別名)である。

そんな狼信仰を題材に、オオカミが十手を持ち
真神のご利益を火付盗賊改方に重ね合わせ
炎を踏みつけている姿が彫り込まれている。
紐穴の縄模様は下手人を縛る縄を彷彿させる。

筋骨隆々の頼り甲斐のある身体で睨みを利かせ
まさに守護神に相応しい姿に仕上げられている。

〜京都清宗根付館所蔵 〜


『封魔祈願』
(鹿角、豆部分:タグアナッツ、象嵌/鬼の目:琥珀、豆の胚芽:黄用)



「鬼一口」とは、鬼が一口に女を食ってしまったという
伊勢物語の説話から、物事における素早く容易い処理や
大変危険な目にあう事や尋常でない苦難の喩えになっている。



鹿角の根元(クラウン部分)を利用し、表には鬼、
裏には川に浮かび流れてくる桃が彫られている。

タグアナッツで豆を彫り、鬼の口の所で留まり
この豆自体が留め具の役割を担っている。

この鬼にとって苦手な豆と、彼の鬼退治の勇者を表す桃とで
非常に危険な物に挟まれ封じ込められている状態にある。

そんな状況でも鬼は不気味に笑っているように見える。
まるで鬼には未だ切り札でもあるかのようなのだ。
そんな鬼の切り札を想像してみるのもまた面白い。

鬼の3つ目は八方睨みで、上下左右の各方向を向けても
目が追ってくるような細工が施され「魔除け」が成されている。


〜京都清宗根付館所蔵 〜


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