〜2011年〜

『絆の種』
(タグアナッツ、象篏/鯰の目:貝、 鯰の瞳:黒水牛角)



本作は2011年3月11日午後2時46分に発生した
東日本大震災を題材に創作された作品である。

現在もその爪痕を残すほど甚大な被害をもたらしたなかで
一風自身、世界中から届けられた多くの支援と激励に対し
大いに感激したという出来事に焦点を当て創作されている。

福をもたらす象徴のお多福さんが「絆の種」を両手で包み
被災された方々、そして支援して下さった方々に
「御多幸」が届きますようにとの祈りを込めている。
これは世界中で助け合いの輪が拡がり「絆の種」が蒔かれ
それが震災後も継続された事への一風なりの謝辞の意であろう。

また、裏側の鯰は地震の象徴であり、これ以上暴れぬよう
お多福さんが髪で縛り付けてあるという意匠になっている。

大きく開けられた紐穴は今作のテーマも含め
「実用に耐える」ことの強い意識が伺える。

〜高円宮コレクション〜


『尚武』(象牙)

第34回「日本の象牙彫刻展」冨永 惣一賞 受賞作品



一風がドイツ剣術を始めて約1年が経過した時点での自らに捧ぐ...

今後の彫刻、剣術人生に対峙して自身への戒めが込められた作品。

戦国の世より蜻蛉は勝ち虫、オモダカは勝ち草と武家に尊ばれ
表側は蜻蛉のヤゴ、裏側は七宝オモダカ紋が配されている。

蜻蛉の幼虫であるヤゴを未熟な己と重ね合わせ
その目線は目指すべき上を向いている。

ヤゴは口に「己」という字形のアカムシを銜えているが
そのアカムシには己の弱き心が表わされている。

更に側面に彫り込まれた太陽と月の形から
「来る日も来る日も」と読み取ることが出来る。

つまり「来る日も来る日も、己の弱き心に勝ち続けよ」と解釈出来る。

一見シンプルかつ、渋い色調が意識されたその背景には
一風が実用を強調した新たな道を模索した痕跡がみられる。


『待ちわびて』(象牙)



夏の夜、浴衣を布団代わりに掛け
一人の遊女が愛しい人を待つ・・・。

随分と待っているのか、浴衣は開だけ
煙草を吸いながら盃を傾け戸口の方を凝視する。




裏側に見える三つ目用の眼鏡は待ち続ける旦那の忘れ物。
この忘れ物を取りに会いに来ると信じて
もうどれだけの夜が過ぎた事か・・・。
遊女は首を長〜〜〜くして待ち続ける。



ある角度から見ると普通の女、
また別の角度から見ると、ろくろ首。

首を長くして待っていたら、ろくろ首になったらしい。

この話はフィクションであり
一風の真夏の夜の妄想の産物である。


『象頭女神』(象牙)


日頃から「二面性を持たない人間などいない」と、感じている一風...

それは彼の性格から察するに、恐らく否定的な捉え方ではなく
「むしろそれが当然である」という肯定的な思想なのだろうと推測する。

蓮の蕾を鼻が掴み、背中に回した左手で肉切り包丁を隠し持つ。

蓮の蕾は女性の愛らしい清らかな面を持つが、その一方で
隠し持つ肉切り包丁は秘められた凶暴な暗黒な面を表す。

「象牙製の象頭の裸婦座像」という御依頼主のリクエストにより
ヒンドゥー教のガネーシャ神とカーリー女神 を合わせたような姿となった。


『忘れ雪』(島桑、象牙)


「忘れ雪」とは、冬から春へと変わる時期に降る雪。

御依頼主が東北大地震で被災された際
大変不便な思いをされた事を踏まえて
その被災地の状況を冬の季節に重ね
「早く復興して春が来ますように
という祈りが込められている作品。

民家には火が灯り、その前には足跡があったりと
静と動が同居する中に、人の温もりが溢れている。

裏側は雪の朝に降り積もった雪に
下駄の跡が前へ前へと続いている。

雪の朝、 二の字二の字の下駄の跡

御依頼主のご要望により
この捨て女の句が、復興に向けた
力強い前進として表されている。

また、よく見ると傍らに春を告げる
蒲公英が咲き始めていている。

 

側面には、朽ち木にも見立てた穴へ
(前進を表す)雪兎が入り込んでおり
静寂な雪景色に「動」が表現されている。

〜内山コレクション〜


『冬暁』(鹿角)


根付 「忘れ雪」の緒締として創作。

雪割草の花と葉に雪輪模様との組み合わせは
雪割草が雪を割って春に一早く咲く様子をイメージさせる。

「忘れ雪」同様、被災地に早く春が訪れる事への祈りから
題名も春を意味する冬の暁(夜明け)となっている。

〜内山コレクション〜


Copyright ippu@quricala, All Rights Reserved.