〜2010年〜

一丸(鹿角)


「チームワーク、勝敗、秀でる者」というお題からイメージする
組織や社会性を思い浮かべ、『狼』へと当てはめた本作。

リーダーである「α雄」を頂点とした組織社会で
α雄は独裁者ではなく、時に下位狼をなだめ
組織をまとめる事にも秀でている者である。

色々な性格を持つ群れを束ね、一丸となって獲物を追跡し
そこで今まさに獲物を捕えた(勝利した)その場面を
この年のW杯で活躍したサッカー日本代表と重ね
ボールがゴールネットを突き破る図となっている。

ゴールの先にまだ目標が無数にあるというように
狼も獲物の追跡は死ぬまで続くその様が感じられる。
狼のそれぞれの性格を表した表情もまた豊かである。

〜高円宮コレクション〜


『化け福』(象牙)


「禍を転じて福と為す」を表した作品で
転んだ鬼(禍)の背中が窪み(傷跡)などによって
お多福の顔が浮かび上がっているように見える。

人生でつまずき、転んだりして上手くいってないようでも
実はそこに重要なメッセージが隠されている場合があり
本作の鬼もそれを必死に掴んでいる様を物語っている。

〜京都清宗根付館所蔵〜


『解(かい)』(メカジキ吻)


狐はたくさんのことを知っているが
ハリネズミは大きなことを一つだけ知っている...
という、ギリシャ詩人アルキロコスが残した詩がある。

御依頼主からメカジキの吻で根付制作依頼を受け
ハリネズミはハリで身を守るという唯一の方法で生き延び
狐は様々な手段で策をめぐらせるという事が本作で語られている。

メカジキの吻は裏側にトゲのようなものがびっしりついており
これを生かすようにハリネズミが彫り込まれている。

メカジキの吻のトゲは使用するうちに取れてしまう為
その事をハリネズミの武装解除(全てを受け入れる理解)で
解除と理解の『解』という字が本作に命名されている。

※吻(ふん)とはカジキ類の鼻先から伸びた角のような部分の事

〜内山コレクション 〜


『理(ことわり)』(鯨骨)


根付『解』の緒締として生まれた作品。

『解』がメカジキの吻が使れている事に合わせ
海産素材で狐色の鯨骨が使用されている。

狐が印を結び真理を求めている図で
狐のたくさんある尻尾は多策を意味し
根付『解』とセットでアルキロコスの詩を表す。

2つの題名を合わせると「理解」となる。

〜内山コレクション〜


『むか〜し むかし』(鹿角)


素材の景色を活かしながら、鹿角の表面に浮かぶ突起を雪に見立て
凹凸をつららや木々、山々、雪の積もった茅葺き民家に利用し
昔話に出てくるような雪模様の情景が表現されている。

茅葺き民家の窓から漏れる囲炉裏の火明かりなどは
下が明るく天井の方は暗くなっているという凝り様である。

角先が折れて丸まった木口に穴を彫り、狸が巣穴から顔を出す。
底にはいろんな者たちが雪につけた足跡が彫り込まれており
人、獣、妖怪達が共存していた昔話の世界観を表されている。

鹿角の可能性を常に模索している一風の挑みでもある。

〜ロバート・キンゼイ蔵〜


『特別な日』(鹿角)


御依頼主が経営する会社の創立40周年記念に合わせて
(一風自身の生誕40周年とも重ねられているという)
お祝いの席に欠かせないケーキがテーマとなっている。

上から見ると梅の花の形、横には生クリームのデコで
竹葉上に乗せたプレートは松の形で松竹梅を表した
オリジナルデザインの松竹梅シフォンケーキである。

裏には皿の模様として足跡が39歩あり
皿の表側には金色に輝く1歩がある。
40周年を迎え、更にここから上の段階へ
歩んでいくという意味が込められている。

ケーキを題材にするにあたり、元洋菓子職人である
一風の父からのアドバイスが細部に渡って反映されており
根付を通して父を仰ぎみた共作ともいえる作品である。

〜京都清宗根付館蔵〜


『磯峰(しほう)』(鹿角)


御依頼主からの御要望で制作された茶道具の根付で
茶碗は志乃焼きをモデルに各部が誇張されている。

口縁は連なる峰のようにそそり立ち、御依頼主が好む山のイメージ。
側面には御依頼主の住まいから見えるような磯の景色として
波と岩、反対側にひび割れを金継ぎで修復したように見せている。
ひびは「人」という字が並び、人々が手を繋ぐようにも見える事で
茶道における人と人との繋がりが大切さが表されている。

茶碗の中には茶筅が彫り出しで入っている(根付としての解釈)。
底は鹿角の髄を用いて、高台のザラザラつきと、紐穴になっている。

御依頼主からの御要望で通常の銘とは別に花押風の銘も入れらた。

磯を(し)と読み、峰を(ほう)として、磯峰(しほう) と読む。
磯と峰(山々)が御依頼主にとっての至宝とかけた題名になっている。

〜内山コレクション〜


『茄子茶入』(島桑、象牙)


御依頼主の御要望で茶碗根付の緒締として製作。

材は茶入の方は質感と色を小笠原島桑の風合いに重ね
茶入の牙蓋は象牙の芯持ち材が用いられており
横につける事で茶入と判るようになっている。

茄子型の茶入は「茄子」と「成す」がかけられており
「夢や目標の実現を成し遂げられますように」という
願いが、この小さな茶入れに込めらている。

〜内山コレクション〜


『至福』(タグアナッツ)




4つのおめでたい図柄として、表は福助の顔
裏はお多福の福笑い、(フクに通じる)フグ、フクロウを
巧く組み合わせ、4つのフク(福)で四福=至福と掛けた
2010年の仕事始めに相応しい題材の作品である。

タグアナッツの形や雰囲気を活かしながら
4つの福図を如何に自然に組み合わせられるか
それは答えの無いパズルを当て嵌める困難な一面と
解き明かす楽しみが交錯する作り手の嗜みでもある。

京都清宗根付館所蔵


Copyright ippu@quricala, All Rights Reserved.